女子FAカップから見る、イングランド女子サッカー人気の推移

FAカップと聞くと、世界最古のカップ戦とイメージする方も多いと思います。

イングランド内のFAに登録されているすべてのクラブが頂点を目指せる

唯一の大会であるため、一部関係者からはプレミアリーグよりも注目される大会でもあります。

日本の皇后杯(全日本女子サッカー選手権大会)にあたる大会です。

 

決勝の地はもちろん、サッカーの聖地『ウェンブリースタジアム』で行われ、

全クラブは「Road to Wembley」をモットーにしのぎを削ります。

今回はその女子FAカップの決勝に焦点を当てながら、

イングランド女子サッカーの人気の推移を見ていきます。

Women’s FA Cup Final

女子FAカップとJFA皇后杯の比較

【女子FAカップ】

歴史:49年(1970年スタート)

参加チーム数:293チーム

2019年決勝の観客数:43,264人

優勝賞金:£25,000(約375万円)

 

【JFA皇后杯】

歴史:40年(1980年スタート)

参加チーム:48チーム(地域大会除く)

2019年決勝の観客数:6,853人

優勝賞金:300万円

 

女子のFAカップも男子同様に、FAに登録されているすべてのクラブに参加資格があります。

2018-2019 シーズンはなんと「293」チームが参加しました。

どれだけ決勝の地にいくのが難しいかが分かります。

 

2015年からは決勝戦の会場も男子と同じく『ウェンブリースタジアム』が使われています。

そんなにでかい会場でやらなくてもと思われる方もいるかもしれませんが、

全クラブの全メンバーが頂点を目指す戦いはとても熱く、

そうした気持ちや熱気が観客にも伝わり、毎年のように来場者数は増えていきます。

今年は有料試合(約2000円)として、43,264人の来場者数を記録しました。

今年の皇后杯の決勝が、全席無料で6,853人なのでその差は歴然としています。

 

イングランド女子サッカー人気の推移

しかし、イングランドの女子サッカーが毎年順調に人気をつけてきたかと言うと

そういう訳ではありません。数年前には危機的な状況に陥った事もありました。

2007年から3年連続で2万人以上来ていたお客さんも、2010年から少しずつ減り始めます。

2012年には1万人を切り、2013年にはついに5千人を切ってしまいました。

5千人で危機的状況という、、当たり前の基準が高いのですが。。

 

しかしFAは人気が低迷する前からすでにイングランド女子サッカーへの投資を決めていました。

2011年に女子リーグを新設し、2012年にセントジョージスパークが設立され、

女子サッカーの指導、環境改革により、女子イングランド代表は着実に力を付けて行きます。

(※この改革や活躍の背景は長くなるのでコチラの記事をご確認ください)

 

代表のレベルが上がった事により、再び注目を浴び始めた国内リーグ。

2014年の決勝には前年の3倍を超す15,098人が来場しました。

 

Go to Wembley

そして、この時にFAはさらなる勝負をかけます。

もっと女子のサッカー人気を高められる!もっとお客さんを増やせる!

と、翌年の決勝の地をウェンブリースタジアムに変更しました。

「Road to Wembley」を掲げて戦い始めた女子サッカーは

良い意味でさらに激しさを増します。

そして2015年の決勝には前年の倍となる30,710人ものお客さんを集めたのです。

5千人未満だった2013年からわずか2年の内に6倍以上のお客さんを呼び込んだ事になります。

ちなみに2014年の決勝会場であるMKスタジアムの収容人数は30,500人でしたので、

そのまま会場を変えていなかったらロスが生じていたかもしれません。

まさにFAによる素晴らしい試みだったと言えるでしょう。

 

完全に人気を取り戻したイングランド代表は、2015年の女子ワールドカップでは

過去最高の3位を記録し、女子サッカーはここからさらなる人気を高めます。

2016年のFA Cup決勝では32,912人

2017年には35,271人

と3年連続で3万人越えを記録します。

2018年にはチェルシーvsアーセナルのロンドンダービーという事もあり

過去最高の45,423人を記録しました。

今年(2019年)は5万人の大台を目指していたため、43,264人の来場者数は

正直残念な結果ではありましたが、有料試合である事などを考慮すると、

2年連続で4万人越えという安定した記録を残せたのではないかと思います。

4万人で残念な結果という、、当たり前の基準がさらに上がっています。。

 

2019-2020シーズンは、記念すべき50回大会となるため、さらなる期待がもてます。

2019年のワールドカップの結果次第では5万人越えも現実的にあり得るでしょう。

 

カップ戦の優勝賞金

今度はお金の方を見ていきましょう。

日本男子サッカーのJFA 天皇杯の賞金が1億円→1.5億円にあげられたことに対し、

JFA 皇后杯の優勝賞金が300万円は不平等すぎるという記事がいくつか出ていましたが、

競技人口からみると妥当な数字ではあります。

 

女子FAカップの優勝賞金は約375万円(ラウンドごとの賞金を入れると500万円程)であり、

チケットの売上が4万人×2000円とすると(キッズチケットやホスピタリティチケットを除き)、

女子FAカップは8千万円のチケット収益を記録している事になります。

 

そう考えると、やはりJFA 皇后杯の優勝賞金はかなり良い待遇だと思われます。

あくまでもこれは相対的な数字から見ただけのもので、

300万円がクラブの強化費として十分かと言うとそれは全くもってノーです。

 

SSEとのパートナーシップ契約

では、なぜイングランド女子サッカーはこれだけの観客を呼び込むことができるのか。

もちろん純粋な女子サッカーファンが純増してきただけではなく、

広告費を含む莫大な費用をかけてマーケティングし、

ブランドイメージ作りから集客までを行っています。

 

決勝の地をウェンブリースタジアムに変更した2015年、

FAはこのまま増えるだろうという希望的観測でウェンブリースタジアムに変更した訳ではなく、

エナジー会社である「SSE」とパートナー契約を結んだのです。

この契約は4年間で数百万ポンドと言われており、数億円もの超巨大契約となりました。

これにより、あらゆるジャンルに投資をする事ができるようになりました。

トーナメントに関する情報を、テレビ、ホームページ、Youtube、Twitter、新聞、雑誌など、

ありとあらゆる媒体を使って発信していきます。

そしてその内容もバラエティに富んでいて、ドキュメンタリー番組を作る事もあります。


【The FA 決勝プロモーション動画】

 

【The FA チケット販売動画】

 

【SSE プロモーション動画】

 

【WestHam 前日動画】

 

【ManCity インタビュー動画】


決勝当日になると、ウェンブリースタジアム周辺はお祭り会場と化します。

どこでも「SSE」のロゴが目にとまります↓

特設の屋内イベント会場から屋外イベント会場までどこもかしこも人でごった返しています。

飲食やグッズ販売も入れると、相当な売上になると思われます。

【決勝限定ユニフォーム】

こちらの決勝の日付と対戦相手が刺繍された限定ユニフォームは、完売です。

 

決勝まで勝ち上がってきたクラブサポーターや女子サッカーファンだけでなく、

これまでサッカーを見ていなかった人達や観光客までも楽しめるイベントを作り上げています。

 

ここで大事なのが、スポンサーを受けたFAの成果だけでなく、

結果として「SSE」もスポンサー効果をしっかりと受けている事です。

これまで続けてきた媒体発信や当日の会場、TV放送によりSSEを

知った人・企業は何千万人にも及ぶことでしょう。

 

スポンサーは募金でも支援金でもありません。

これだけのお客さんに見てもらい、知ってもらい、感じてもらう事により

SSEが受けた効果も相当なものになります。

渡す側も受ける側もWin-Winになるカタチができています。

だからこそ、それだけ巨大な契約を結ぶことができるんだと思います。

 

投資するファンを作る 🔁 競技人口を増やす 🔁 強化する投資する

(ファンが増えれば競技者が生まれ、競技者が増えれば家族・友人がファンになります。)

これを繰り返し繰り返しやり続ける。

 

Barclaysが再びイングランドサッカーのスポンサーに!

これらの結果、ついに、男子サッカーの最高峰リーグであるプレミアリーグ

のスポンサーを長年務めていた「Barclays」が

2019-2020シーズンからイングランド女子サッカーのスポンサーになる事が決まりました。

(女子FAカップだけでなく、リーグ戦など全てのスポンサーです)

その額は、3年で1000万ポンド(約15億円)を超えると言われています。

イングランド女子スポーツ界の中でも圧倒的最高金額による契約が結ばれたのです。

リーグ優勝賞金も莫大に上がる予定です。

 

今後数年のうちに、

・リーグプロ化 = 全クラブ完全プロ化

・プロクラブ、下部クラブ数を増やす(競技人口の増加、ファンの増加)

・国内クラブによる女子チャンピオンズリーグで優勝

・欧州だけでなく米国から優秀な選手、指導者がイングランドに移籍してくる

・ヨーロッパの女子サッカー人気が高まり、放映権収入が上がる

・移籍金による各クラブの収益が上がる

・観客数によるチケット、グッズ収入が増える

・イングランドがワールドカップ、オリンピックで優勝する

FAはこれらを考えており、確実に行動し結果を出してくると思います。

そうして得た資金を今度はどこにどう投資していくのか、

カップ戦もリーグ戦も男子のように毎試合何万人もの観客が訪れるようになるのか

楽しみでしかありません。

 

最後に(ビジネスが下手な日本)

海外はお金があるからな。。

そんな言葉をよく耳にしますが、元々イングランド女子サッカー界にはお金はありませんでした。

しかも代表チームは強くなく、それほど人気も高くはなかったのです。

 

日本を見てみるとどうでしょうか。

2011年 女子ワールドカップ優勝

2014年 U-17 女子ワールドカップ優勝

さらには、

2018年 U-20 女子ワールドカップ優勝

と、こんなにも女子サッカーをアピールできるビジネスチャンスがあったのです。

日本もお金がない中、全世代で優勝した唯一の国である事はとんでもない偉業であると同時に、

その時に大きな投資ができなかったことは残念でなりません。

 

しかしまだまだ日本女子サッカー界への世界からの評価は高く、

日本人にしかできないプレーを求めているクラブは欧州にもたくさんあります。

 

技術力が上がってきている他国、特に韓国や中国をはじめとするアジア勢や

スペインやスイスなどの欧州勢がさらに力をつけた時には日本は本当に手遅れになると思います。

 

仮に日本が莫大な予算を投下して環境作りから着手したとしても

それが結果として出るには数年から数十年の年月がかかります。

 

来る2020年。

東京オリンピックで優勝するためには、早急に海外選手と戦えるチームにしなくてはなりません。

選手を失うのはクラブにとっては厳しい事ですが、個人と国全体の発展として、

世界で戦える選手が必要なのは間違いありません。

今こそ、なでしこ選手(正直言うと、指導者やフロント、経営者も)は世界に挑戦し、

個の技術やフィジカルからチーム戦術、さらにはクラブの経営方法までもを学び、

日本サッカー界に還元するべきではないかと思います。

その方向性をクラブと協会が明確に示していくべきだと思います。

 

日本代表が再び頂点に立つのと並行して、資金を確保する事ができれば

今度こそ各国のトッププレーヤーが日本に移籍できる環境を整えられるはずです。

 

ワールドカップを全世代で優勝した日本のなでしこリーグは

世界最高のリーグであるべきだと筆者は考えています。