サッカー未経験から「よそもの」の価値を見い出し、横浜F・マリノスへ

武田裕迪
10年働いた株式会社リクルート(現:株式会社リクルートキャリア)を退社後、横浜マリノス株式会社に就職。
横浜F・マリノスのメディア&ブランディング部にて主にeスポーツを担当。
スポーツメンタルコーチやキャリアコンサルタントとしても活動中。
Twitter: https://twitter.com/taqueda1020
Facebook : https://www.facebook.com/hiromichitakeda1020

惜しくも2年連続のFIFA eWorld Cup出場は逃したものの、国内外で注目される横浜F・マリノスのeスポーツ参入。

今回は、横浜マリノス株式会社のメディア&ブランディング部にてeスポーツを担当している武田裕迪氏にインタビューさせて頂きました。


前職で培った力を活かしてF・マリノスへ

坂井
早速ですが、簡単に武田さんのサッカーのキャリアを教えてください。

 

武田
お恥ずかしいくらい全く無いです(笑)。
幼稚園のときにちょっとやっていたくらいで。

スポーツでいうと高校までは野球で遊ぶことの方が多かったです。
しかも遊びレベル。

左投げで変化球を3種類投げられたので、中高時代は野球部に勧誘されたことはありますが、僕なんか通用しないだろうと固辞していたのと、文化系でしたので城の模型を作ったり日本史の文献を読み漁ったりするような「歴男(≒陰キャ)」として過ごしていました。

まじめに体育会でやっていたのは大学時代のラクロス。
ただ、うちは強豪校で選手層が厚かったのと、怪我が多かったのもあり、4年次は新人コーチとして1年生を育成していました。

以上のことから、マリノスの社員では一番サッカーが下手な自信があります(笑)。

 

坂井
小中校のどこかでマリノスのクラブに関りがあると思っていたので意外でした!

どうしてサッカー業界で働こうと思われたのですか?

 

武田
そうですね、実家が三ツ沢の近くでしたので試合観戦はそれなりにしていましたが、地元横浜で、しかもベイスターズじゃなくマリノスで働くということは全く考えずに育ちました。

サッカー業界に関わりたくなったきっかけは2つあります。

1つ目は、2011年(入社4年目)にリクルートの営業としてマリノスを担当したことです。

簡単に言うとリクナビの営業をやっていて、取引実績はない「管理顧客」という位置づけで引き継ぎました。
会社に文句は言わせないようにしっかり結果は出しておきつつ、時間を作って懐かしのマリノスタウンに通っていました。

あるとき、マリノスの担当者と、大学生向けのインターンシップを企画しましょう、という話で盛り上がりました。
サッカーの業界は従来、サッカー部関係もしくはスポーツ系の専攻の学生がインターンに志願してくることが多く、それはそれでありがたいのですが、違ったバックグラウンドの学生に来てもらうことが新たな刺激になるのではと考え、リクナビで公募することに。
かつ、ミーハーな方より熱量の強い方を優先したく、応募段階で超難しい課題への作文を必須としました。
応募動機だけでなく、Jリーグの課題は何かとか、スタジアムの集客数を増やすにはどうするかとか…。
それにも関わらず多くの応募をいただき、担当者と一緒に学生の熱い論文を全て読んで感嘆したことを覚えています。
説明会も試合前の日産スタジアムでやりまして、スーツ姿の学生がいっぱいスタンドに座ってくれました。

自分としても初挑戦だったこの取り組みは不完全燃焼も多少ありましたが、サッカービジネスはのびしろが大きいことを外の立場から知ることができたことと、違うバックグラウンドの持ち主(”よそもの”)の介在価値の可能性に気づきました。

 

坂井
マリノスタウン懐かしいですね。それにしても狙いどころが面白いのとそれを受け入れられたマリノスさんもとても柔軟ですよね。

私も前職が人材会社でしたので、学生からフレッシュな意見を取り入れる事の重要さは身をもって感じています。むしろ学生から学ぶことも多いですよね。

もう1つは何ですか?

 

武田
2つ目は、2014年~15年の四国時代です。
同じく営業として香川県に転勤しまして、友達ゼロ人の新生活をどうにかしたい気持ちもあり、サッカー関係の友達を作りたいと触れ回っていたら、カマタマーレ讃岐での公式戦のボランティアや、中四国のJ2クラブの方々やサポーターと飲み友達になる、といった機会をいただきました。

気づいたことは3つ。
①讃岐のJ2昇格、徳島のJ1昇格という契機だったにも関わらず、街にサッカー熱が全然ないこと
②特に若者にとっての娯楽や地元を好きになれるリソースが少ないこと
③(②の状態で)UJIターン就職などを呼びかけても焼け石に水であること
県外の大学に出た学生の8割は地元に帰ってこないという現実があります。

それでも、僕は香川県を第二の故郷と呼べるくらい大変お世話になりましたし、街が寂れていくことや、若者世代が出たきり帰ってこないことに対して自分なりの解決策を提示したいと思いました。
そうなると、リクルートキャリアというドメインやリクナビというメディア(大学生活~就職活動~入社後活躍)の範疇を超えて、かっこよく言えば地方創生を僕はやりたいんだ、と気づきました。

じゃあ改めてなんでサッカーなの?と振り返ると、2点あります。
地方創生について勉強した結果、上流にエンターテインメントがあると知ったんです。
うろ覚えですが、娯楽があることで旅行者が増え、地元経済が活性化し、雇用が生まれ、移住定住が増え、そしてさらに娯楽が増えというサイクルで、自分が最も関わりたい、かつ興味があったのは娯楽、なおかつスポーツだなと。

もう1つは、当時ファジアーノ岡山の社長で現Jリーグ専務理事の木村さんのお話です。
木村さんは、お隣の広島県における広島カープのようなものが岡山にあれば…子どもの頃から思っておられて、ファジアーノを立ち上げ、小さな小さなクラブを10年かけて平均動員1万人に届くところまで育てられました。

そんな刺激から、スポーツビジネスに関わる人が本気になれば広島におけるカープのような熱量は作れると今でも信じていますし、その熱量や取り組みをJ1~J3の全国55クラブに横展開すればめちゃくちゃ面白いじゃん、それを仕事にしてみたいな、と思いました。

 

坂井
四国にも行かれていたんですね。

最近では野球人気が減ってきていると言われていますが、球団数はJリーグより少ないですが、試合数が圧倒的に多い中、毎試合しっかりと観客が入ってるのはすごいですよね。

少しずつ見えてきましたが、横浜F・マリノスに入られた経緯を聞かせて下さい。

 

武田
四国から東京に戻ってしばらくたった頃、さきほどの話に登場したマリノスの担当者が、「中途採用をしたいので手伝ってくれないか?」と連絡をくれました。
私はそのとき人事企画のような仕事をしていたので、リクナビNEXT(転職領域)の担当営業を紹介したのですが、しばらくたってから自分がやりたくなってしまい、「あの話ってまだ動いてます?僕なんかどうですか?」と自分を売り込みました。
電話の向こうからは「え、マジで言ってんの?」と驚かれましたけど(笑)。
実はその方が今の部署の責任者で、僕の上司にあたります。

マリノスとのファーストコンタクトから6年経っていましたが、四国時代に「よそもの・ばかもの・わかもの」が変革人材になり得ることを見てきましたので、自分も飛び込むなら今がちょうどいいんじゃないかと腹を括りました。

とはいえ、こちらにとってもギャンブルに近いキャリアチェンジなわけですし、飛び込む先に”よそもの”を受容する土壌がないと転職は失敗してしまうものです。
ここは見定めきれなかったですが、志ある先輩方が先進的な取り組みに挑戦していることが分かったので、結果として良かったな、と思います。

※最近のマリノスの取り組みはこちら

またこれは転職経緯というより入ってから気づいたのですが、CFGのリソースにアクセスできるのは魅力です。
フットボールの最先端は良くも悪くもここだと認識できることと、CFGの世界戦略を肌で感じられることで、これを日本風にしてこんな解釈を試したいとか、あわよくば本場イングランドの人々を良い意味でギャフンと言わせてやりたいという新たな欲求も生まれました。
副産物として、僕自身がシティのファンになってしまいましたが。笑

※CFG = City Football Group
参照 シティ・フットボール・グループはマリノスを変えたか?

坂井
確かにCFGの考えや戦略を現場で感じられるのは羨ましい限りです。
改めまして昨シーズンの国内3冠おめでとうございます!

前職がリクルートとお話頂きましたが、サッカー業界に入ってから活かせている能力(知識・人脈・営業スキルなど)はありましたか?

 

武田
2月までやっていた営業では、前職で教わり培った勘所を概ねそのまま活かせました。
むしろ、サッカークラブは営業会社としての完成度は途上なので、法人営業で再現性ある成功体験を持っている人であれば、成果と影響を与えうる可能性は高いと思います。

「クライアント(スポンサー)からいただいた金額以上の価値をお返しする」という大原則はここでも活きていて、そのために自社のアセットを自由な発想で組み立てる。
自分の成功体験というより、前職の偉大な先輩方が、「ないものはつくればいい」とパンフレットにない商品を売ってきたり、顧客接点から新たな歴史・概念・文化を創ってきたことを励みにしましたし、それは間違っていないと言えます。

マーケティングの仕事では、「見立てる」「仕立てる」「動かす」の三原則がぐるぐる回るわけですが、このバランスを見失わないように、目的志向と未来志向を忘れないこと、これも教訓として活きています。

ちなみに、人脈や知識は、行動する意欲と勇気、それから学ぶ姿勢があればいつからでもいくらでも手に入るので、予習は要らないと思います。
どちらも、サッカー業界独特のものがあるのでそれはそれで使い倒すことと、一方で業界が狭いので業界外の人や情報と積極的に交わりバランスを保つことは意識しています。

 

坂井
間違いないですね!

クライアント(スポンサー)=支援金ではないのでしっかりとそれ以上のモノを返さないといけません。
中にはまだまだ支援金や応援金として頂いているクラブもあるのでそうなるとどこかで行き詰ってしまいますよね。

私も会社の立ち上げをした事があるので、一言一言が染み渡ります。

続けてください。

 

武田
以上のことから、前職時代にどれだけやりきってきたかということと、仮に前職時代に活躍しきれていなかったとしても、活躍していた人はこれを大事にしていた、というベストプラクティスの型やスタンスを血肉にしておくことが転職人材の財産なんだろうと思います。

スタンスで付け足すなら、「熱と論」「ロマンとそろばん」は大切な教えです。……僕が技術的なエキスパートならもっとテクニカルな話になっただろうに、自分に特段スキルはないのでスタンス論が先行していますね、かつ教わったことが多いもので話が長くなってすみません(笑)。

 

坂井
いえいえ。私も、技術力や知識があったとしても最後はパッションやロイヤルティがモノを言う。と思っている側ですので。
でも実際にサッカーの試合もそうですが、情熱なくして試合に勝つことはできないですからね。

マリノスではメディア&ブランディング部にてeスポーツを担当されていますが、まだまだ新しい領域であるeスポーツの仕事の難しさであったり、仕事の醍醐味を教えてください。

eスポーツについて

武田
難しいことでも醍醐味でもあることですが、前例がなくて理解者が少ないことです。

立ち上げ期にはヴェルディさんにも教わりにいきましたが、良くも悪くも相場やルールがほぼ無い。だったら僕たちが先に結果を出し事例を創ってしまおう、と思っています。

eスポーツそのものの知識は皆無でしたのでその道のプロに引っ張ってもらいましたが、eスポーツに参戦している各業界(通信、飲食、メディア、エンタメなど)がeスポーツに還元できることもあって、例えばプロリーグの運営はJリーグ、プロ選手の活用はマリノスにノウハウが貯まっているので、僕であればそれをeスポーツ界にシェアしながら、熱量ある人々でカルチャーを組み立てつつあります。

理解者という点では、何もわからない人と、eスポーツを斜めから見ている人が両方います。
彼らに対して、ゲームをやってくれとか、ゲームのルールや面白さを理解してくれというのは得策ではないと今は思っています。
ビジネスメリットとして「とにかく10代~F1M1層をグリップしていること」と、競技シーンとして「フィジカルスポーツと遜色のない感動と興奮のある競技であること」「どんなゲームタイトルでもプロであれば、それ相応のプロ意識が伴っていること」は正しく理解していただけるように、ひとつでもひとりでも多く「見立て」「仕立て」「動かし」ていくことが、日本におけるeスポーツの成否を占うと勝手に使命感を持ってやっています。

※F1層 = 20歳~34歳の女性 M1層 = 20歳~34歳の男性

坂井
正直なところ最初は私もeスポーツに対しては疑問だらけでした。むしろ懐疑的と言うか。

ですが、観客が熱狂している動画などを見てから気になり始めて、マーケティング視点で見始めてからは、まだまだいろんな可能性がある領域なんだなと思っています。

どういう環境に選手がいるのか、どんなトレーニングをしているのか、試合前の栄養とかまでも管理しているのか、どれぐらいのお金が動いているのかな。など、今では追及心からポジティブな疑問だらけになってます。
ここでお聞きするとキリがなくなりそうですので自分で調べますね(笑)。

 

武田
ぜひぜひ。調べてみての感想また聞かせてください。のびしろの多い世界ですから、坂井さんがご覧になって気づくことも大いにあろうかと思います。

また、eスポーツの現在地は、王さんや長嶋さんが出てくる前のプロ野球界に近いと言われています。
eスポーツ選手のマネジメントも僕がしているのですが、彼らはスターになりたいと強く望んでいます。
彼らが王さんや長嶋さんのような国民的スターになれると僕は信じていますし、そうなる日を夢見て選手や業界と向き合っているプロセスこそが一番の醍醐味です。

そうはいっても読めないのが、ゲームタイトルの盛衰です。
今はシャドウバースとFIFAの2つのタイトルで参戦中ですが、この影響はもろに被ります。
それぞれのタイトルが、サッカーや囲碁将棋などのようなスポーツと同様の普遍性や市民権を得られるか、あるいは得る気があるのかというところが課題ですが、イチ当事者としては本気で関わり、作り手の本気度を少しでも高めることにフォーカスするしかないと考えています。

 

坂井
ゲームの制作側やプロデュース側も、内容やタイトルや広告などは、よりeスポーツで取り上げられるような方向にすすんでいきそうですね。

国内ではeJ.LEAGUEが昨年(2018)スタートし、海外ではFIFA主催のFIFA eWorld Cupだけでなく、今年(2019)からはUEFAが主催するUEFA eChampions Leagueもスタートしマリノスの選手もこのような国際大会に出場されていますが、メディアの一つでもある、eスポーツがクラブにもたらすブランド効果・経済効果にはどのような事を期待されていますか。

武田
ブランド面の期待効果は、マリノスに関心を持っていただける方が増えることに尽きます。

ありがたいことに皆さんのほとんどはマリノスを知っていますが、「関心がある」「試合を観たことがある」という方が少ない。

そこで、従来のプロモーションでは届かない領域、かつ新しい世代との出会いがeスポーツにはあるわけですが、eスポーツファンだけでなくあらゆる方々に、「マリノスってサッカーの?なんでeスポーツ頑張ってるの?」とか、「eスポーツにここまで気合を入れているということは、本丸のサッカーも含めていろいろなことにチャレンジしているに違いない」と、マリノスって先進的だな、先駆けてるなと思われる存在であり続けたいです。

 

坂井
昔も今も柔軟で新しい事に挑戦するスタイルは、武田さんのような方々が受け継がれているんですね。

 

武田
いえいえ、僕もまだこっちの世界では新参者の部類ですからまだまだです…ただ、尊敬すべきサッカービジネスパーソンは、「クラブが大きくなるために」「ファン・サポーターが喜ぶために」といった原点に照らして物事を判断・決断しています。
この原点に即した意思決定を繰り返すと、自然とクラブアイデンティティの体現者になるんだろうなと思います。

さて、経済面の期待のお話をすると、「Jリーグのオリジナル10のトップチームと、eスポーツチームを両方抱えている」というオリジナリティ自体にスポンサー企業がついていますし、今後も順調に増えるでしょう。
それだけでなく、eスポーツに関わりたいけれど何をしたらよいか分からない企業にとっての、eスポーツとのハブになりたいです。
例えば、eスポーツ選手を自社に所属させるということは簡単ではありません。
契約、給与、マネジメント、広報、育成…。でも、マリノスの選手であればそれら全て僕たちがやっていますので、マリノスの選手を使って企業の事業目的や理念実現を達成していく事例をどんどん創っていきたいです。
これを通じて、eスポーツに関わる企業がどんどん増えるといいなと思います。
ゲームの賛否や業界の帰趨の議論は、実際にこの世界に関わりプロ選手の人となりや試合の臨場感を味わってからでも遅くない、というか、一度現地現物をご覧いただきたいというのが担当としての想いです。

ちなみにFIFAのナスリ選手は、二年連続のeワールドカップ出場という目標は惜しくも達成できませんでしたが、彼は弱冠19歳にしてとてつもない経験をし、界隈からプロとしてのリスペクトを集めています。
年齢も体格も国籍も全然違う選手たちと力強く渡り合っています(このあたりがeスポーツならではですね)。
リアルサッカーに先んじて、日本を代表してマリノスのナスリ選手が、並み居る欧州クラブ所属のプロ選手を倒して勝ち上がっていくのは、FIFAというゲームのことが分からなくても痛快さを味わえます。

 

坂井
ナスリ選手のニュースはネットで知りました。
やはり一度見現場に行き、実際に目で見て体感する必要がありそうですね!

それでは、eスポーツから見る今後のマリノスの展望をお聞かせください。

 

武田
eスポーツもon the pitchとoff the pitchと分けられ、後者はサッカーにおけるそれと近いのですが、前者に対する最適解を探していきたいです。
つまり、eスポーツの選手が勝つために、心技体(メンタル、テクニカル、フィジカル、メディカルetc)の面で、どんなサポートが結果を出すために望ましいかについては、正解がいまのところ無いので手探りで続けています。
どんな競技もそうですが、個人技術の優劣だけで勝敗は決まりません。
eスポーツのプロというのは、野良で戦えば9割方勝てる選手同士でぶつかりあっていて、そうなると対戦成績は五分五分です。
かつ、シャドウバースでいうと運の要素もあるのですが、ファンから「あんなの運ゲーだろ」と言われるようではリスペクトは生まれない。
仮に運で劣っていても勝てる、あるいは運や環境すら味方につけて勝利を手繰り寄せるチームビルティングを通じて、eスポーツという競技シーンでも「常勝」「名門」「先駆者」「伝統」というマリノスらしさを手に入れたいです。

 

坂井
ゲームと言えど、1つ1つのプレーの選択の連続で運を手繰り寄せたり、最後の場面での判断は、冷静なメンタルが必要ですよね。

まさにPKなんかはデータ収集などが活きてくるんじゃないかと勝手に思ってます。

 

武田
このように、クラブとしてeスポーツに限らずいろいろなチャレンジを続けるとき、マリノスらしさがいつも滲み出ていて、そんな「らしさ」に関心を持つ人が増え、マリノスの一挙手一投足に注目してもらえるようになれたら嬉しいです。

 

坂井
ありがとうございます。

武田さんのもう一つの側面をお聞きしたいと思います。
武田さんは、スポーツメンタルコーチとしても活動されていますが、具体的には、どのような方を対象に、どういうことをされているのでしょうか。

スポーツメンタルコーチとは

武田
今の業務とは直接関係は無いのですが、個人的にライフワークとして、メンタルコーチ活動をしています。
詳細は僕が受講した㈳フィールドフローのHPが詳しいです。
メンタルというと様々な意味づけがなされている昨今ですが、僕の役割を一言でいうと、「コミュニケーションによる上質な刺激を通じて、選手にポジティブな気付きを提供する人」です(ややこしいですよね、分かりやすい定義を模索中です…)。
大坂なおみ選手についていたサーシャコーチのような立ち位置をイメージしてもらうと良いかなと思います。

 

坂井
すごくイメージつきました。

 

武田
対象は、あらゆる競技の、プロから子どもたちまで。僕がこれまで関わってきた競技は、サッカー、フットサル、ラクロス、野球、ソフトボール、アーチェリー、テコンドー、ダンス、チア、そしてeスポーツ。これらの競技の技術はもちろん教えられません。

みなさんも心当たりがあると思うのですが、人と話していて気付くことや、質問されてはじめて考え、そこからご自身の価値観や大切にしたいことを発見するということは、プロ選手含めてあります。「将来の夢は?」とか、「今の気持ちは?」とか、「本当はどうなりたい?」とか。

大事にしているのは、技術指導も含めたティーチングは基本的に行わず、コーチングであること。コーチングとは、選手が手に入れたいことや行きたい方向を全面的に支持し、問いかけたり勇気づけたりしながら夢の実現に向けて一緒に歩く(あるいは、背中を押す。決して引っ張らない)ことと解釈しています。
例えば、タクシーの運転手のアプローチはコーチングです。
運転手は、乗客に対して「渋谷行こうよ」とか「ここ行けばいいじゃん」と言わない(ティーチングしない)ですよね。
乗客がどうしたいかを尋ね、それを叶えるために連れて行く(コーチングする)。
運転手が乗客に行き先を尋ねるように、僕も選手に行き先、つまり、「(何の制限も無く、過去にも支配されず、未来の可能性は無限大だとしたら)どうなりたい?何を手に入れたい?」を問いかけます(※)。
制限(どうせ自分なんて…や、○○したらどうしよう…といったネガティブな思い込み。呪縛とも言い換えられる)を外せば、バロンドールを獲りたいとか、エデルソンみたいになりたいとか、壮大で素敵な「なりたい自分」が選手自身の口から出てきます。僕は、その究極の成功イメージを選手に味わってもらいながら、そのための道筋を一緒に描きます。
正確に言うと、描くのは選手自身で、僕はそのサポートや補助線引きをしているだけです。
その手段として、短期~長期の目標設定やその進捗管理、モチベーション管理、本番発揮力向上のための良い習慣づくりなどに落とし込みます。

 

坂井
なるほど。
「○○になりたいな」を実現するために「なにをしていく必要があるか」までをポジティブな状態の中で考えさせてあげるんですね。

 

武田
他にも、アンリソースフル(逆境、不安、焦り、恐れ…)だと捉えていることをリソースフル(順境、いい感じ)に捉え直すことも有益です。
例えば、電車が遅延していて、イライラしているとします。
「ちょうどいい、なぜならば…」と唱えてみてください。
メールチェックできるなとか、本を読めるなどと思いつくでしょう。
このように、電車が遅延しているという動かしがたい事実をイライラすることではなくちょうど良い事象だと捉え直せる考え方って、競技シーンでいうと天気、ピッチコンディション、レフェリング、自分の序列、人間関係、ファンからの批評などといった事実事象に対して自分を良い心理状態にコントロールすることに活用できたりします。

このように、思考を目的志向や未来志向に、捉え方をいじってみる、ということを、選手自身の価値観に沿って整えたりもしています。

蛇足ですが、競技人生だけでなく人生の支援も同じスタンスで行っています。
かつ、僕はキャリアコンサルタントの資格持ちなのと、経営や人事の目線もそれなりに理解はしているので、選手が望めば、自分の持ち味を活用し、引退後の人生についてのコーチングやカウンセリングもしています。
若手の選手でも、20年後の自分をイメージすることは今すぐできます。
そのときどうなっていたいかから逆算して、そのために今自分ができることを1つでもやってみる、ということもやります。

僕は、トップアスリートにセカンドキャリアを考えなさいとティーチングするのはあまり賛成できません。
選手主語でないことがあり、今を全力で生きている選手に対するリスペクトを欠いていることがあるからです。
一方で、選手が競技人生を終えたとき、参ったな、さて何しよう、やりたいことがない…では非常にもったいない。
メンタルコーチとして実感していることは、競技人生も人生そのものも同じくらいリスペクトし、同じくらいのテーマ観で選手に向き合って味わってもらうことが重要で、さらにそれが今のパフォーマンス向上に間違いなく寄与するということです。
どちらについても現実逃避せず、間違ってもいいので描いてみる習慣づけから始まる気がします。例えば、月1程度でも良いので、「競技者としてMAXのなりたい自分」「どんな大人になりたいか」「どんな親になりたいか」「なにをやり遂げて人生を全うしたいか」という人生のタイムラインを歩み、今自分にできることを1つだけでもやってみる、ということの繰り返し。

セカンドキャリアというセンシティブなテーマをもし僕が扱うならば、転職の話に入る前に、引退後の人生でありたい姿を探求した結果、不安が晴れて今日から練習へのモチベーションが上がっているような、「今ここ」の競技者としての人生に悔いを残さないことを大前提としたいです。

※たまたまですがうちの”ボス”も、限界を置かないのがコーチングと言及しています

※参照 限界を超えていけポステコグルー流、魅了するサッカーとは
※参考書籍 「嫌われる勇気」(アドラー心理学を軸としたコーチングをしています)

坂井
私もプロアスリートにセカンドキャリアを考えなさいと直接的に言うのも、逆に道を用意しておくのも反対派です。

プロを目指していた若いころから武田さんのような方とお会いしてたらなぁと思いました。

最後に、これからの武田さんの目標や夢をお聞かせください。

 

武田
うーん、難しいですね…。
医者の不養生とはよく言ったもので、クライアントが夢を語るところにしょっちゅう居合わせておきながら、自分のことはあまりよく分かっていないんです。
そこで自分もメンタルコーチングを不定期でしてもらっているのですが、セッションするたびにアップデートされるので、ふっべじ当日に言うことはまた変わっている可能性も全然あります笑。

仕事人としてはシンプルで、こういった登壇の機会をよくいただくような人間であり続けたいです。
思えば昨年の今頃にはマリノスはeスポーツを立ち上げてもいないですし、自分もeスポーツのことを何も知りませんでした。
スポーツメンタルコーチという存在も知りませんでした。
ということは、来年の今頃どこでなにをしているかは僕の場合分からない。
ただ、そういう新しいことや前例のないことは出来る限り取りに行き、自分のモノにしてしまって、意見や求められたり相談を持ちかけられたりするような、そういう先駆者でいたいです。

 

坂井
武田さんの人生で先駆者はキーワードになりそうですね!

 

武田
本当に先駆者だと胸を張れる日が来たらいいですねー。
今はただの新し物好きレベルですが。
留学に行って世界観や価値観が変わるように、飛び込んだときに誰かと出会い、何かに気づき、新しい目標や欲求(will)が生まれるということを続けたい、というのが個人の目標です。
例えば、メンタルコーチとしてどうなりたいかの話をすると、担当した選手たちに、一人でも多く東京五輪に出場してほしいです。
2020を、ただテレビや観客席で観ているのでは満足できないんです。僕は、コーチングスタッフとして、ADを提げて、ピッチレベルに立って選手の表彰式を見ている。選手が、表彰台の一番高いところで君が代を聞いて、とんでもなく素敵な顔をしている。一瞬だけ僕と目が合って、すべてを分かり合った二人が黙って頷いている。「こうなるの、去年の今頃から僕たちはイメージしてたよね」と。

そうなったらもっと欲求が芽生えて、W杯にも関わりたい。現地に行かなくてもいいのですが、選手と電話し、手に入れたいものを確かめ、ベストパフォーマンスを発揮するお手伝いを影からやりたいです。……そのためには仕事ではここまで到達し、これくらいの時間と権利を確保しておく必要があるなーという形で、個人の欲求から逆算して仕事の目標を立てる方が、僕の性に合うように最近思います。

 

坂井
素敵な目標ですね!

金メダル選手を支えた男としてドキュメンタリー番組に出てるシーンが思い浮かびました。笑

 

武田
あとひとつ、僕はカスタマーの不を起点にアイデアを考えるタイプでして、
気になるのが、
①選手の人生レベルでの幸せ(選手だって、ロマンとそろばんを両立したい)
②クラブで働く職員の幸せ(働く上での安心安全と競争原理を両立したい)ですね。
例えば①であれば、選手と一緒に大手企業の人事部にデュアルキャリア的な人事制度と現場づくりを掛け合いに行く、というのはやったことがありますが、根気の要るテーマなのでじっくり知見を貯めていきたいです。

いったんはこんなところでしょうか。もし気になる方や、共感いただける方がいらっしゃったら、僕に話しかけたり問いかけたりしてみてください。その時点のフレッシュな気持ちで考え始めますので!笑

 

坂井
一つ一つ事細かくお答えいただきありがとうございました。

また、ふっべじのご登壇の際によろしくお願い致します。

内容は変わっていても大丈夫です!


お話を聞く中で、ご自身がクラブ(会社)に入社する前からやりたい事が明確であり、
そのための努力を惜しまず人材業界という別ジャンルでも活躍されてきたからこそ、
サッカー未経験にもかかわらず、F・マリノスの新規領域であるeスポーツの担当を任されているんだと感じました。

日本を代表して世界大会で戦うマリノスeスポーツチーム。
これからも「先駆者マリノス」としての戦略に注目していきたいと思います。


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